「最近、愛犬がゴホゴホと咳をするようになった」
「シニアだから仕方ないのかな?」
「風邪のようなものだと思って様子を見ているけれど大丈夫?」
犬の咳は、飼い主さんがとても不安になりやすい症状のひとつです。
実際、当院でも「咳が出ていて心配です」という相談は日常的にあります。
咳というと、多くの方が
「のどに何か詰まったのでは?」
「気管や肺の病気かな?」
と考えがちです。
もちろん、それらが原因のこともあります。
しかし、臨床の現場で実際に多く見られる原因のひとつが「心臓病」です。
しかも心臓病は、初期の段階ではほとんど症状がなく、咳は病気が進行してから出てくることが多いという特徴があります。
犬の咳は珍しくないが、理由はさまざま

犬の咳は、決して珍しい症状ではありません。
ただし、「なぜ咳が出ているのか」という理由は犬によって大きく異なります。
まずは、咳という症状そのものを正しく理解し、どのような場合に注意が必要なのかを整理していきましょう。
犬の咳は体からのサイン
咳は、気道(のど・気管・肺)に刺激や異常が起きたとき、体がそれを外に出そうとして起こる防御反応です。
人でもホコリを吸ったときや風邪をひいたときに咳が出ますよね。
犬も同じように、軽い刺激や一時的な違和感で咳をすることがあります。
そのため、一度や二度の咳だけで、すべてが重い病気というわけではありません。
ただし、犬は言葉で不調を伝えられません。
だからこそ、咳は犬が私たちに送っている大切なサインとして受け取る必要があります。
「様子見でいい咳」と「見逃せない咳」がある
たまに出るだけで、すぐ治まり、元気や食欲が普段通りであれば、少し様子を見ることもあります。
一方で、咳が続く、回数が増える、生活に支障が出てきた場合は注意が必要です。
大切なのは、
「咳があるかどうか」
ではなく、
「咳に変化があるかどうか」
に気づいてあげることです。
犬の咳で考えられる主な原因

犬の咳には、さまざまな原因があります。
のどや気管のトラブルだけでなく、環境要因や体の内部の病気が関係していることもあります。
ここでは、犬の咳でよく見られる原因を大きく分けて見ていきましょう。
呼吸器・環境・異物などの原因
犬の咳の原因としてよく知られているのが、呼吸器のトラブルです。
小型犬に多い気管虚脱、気管支炎、感染症などが挙げられます。
また、ホコリや花粉、煙などの刺激や、散歩中に草の種を吸い込んでしまった場合なども、一時的に咳が出ることがあります。
これらは比較的イメージしやすく、飼い主さんも原因として考えやすいでしょう。
臨床現場で非常に多い「心臓病」
一方で、動物病院の現場で実際に多く診察するのが、心臓病が原因となっている咳です。
特に小型犬やシニア犬では、その割合が高くなります。
心臓病による咳は、風邪やのどの病気と勘違いされやすく、発見が遅れてしまうことも少なくありません。
心臓病は初期ではほとんど症状が出ない

犬の心臓病を考えるうえで、最も知っておいてほしいポイントがあります。
それは、心臓病は初期の段階では、ほとんど症状が出ないということです。
この特徴を知っているかどうかで、病気への気づき方は大きく変わります。
心臓病の初期は無症状で進行する
心臓病の初期段階では、
✅ 食欲がある
✅ 元気に散歩に行く
✅ 見た目は普段と変わらない
という犬がほとんどです。
体の中では変化が進んでいても、心臓が一生懸命働き、体がそれを補っているため、症状が表に出ません。
そのため、飼い主さんが異変に気づくのはとても難しくなります。
咳は「心臓病の初期症状」ではない
ここはとても重要なポイントです。
心臓病において、咳は初期症状ではありません。
多くの場合、病気が進行し、心臓や肺に負担がかかってきた段階で、咳として症状が現れます。
つまり、咳が出たときには、心臓病はすでに以前から進行していた可能性が高いのです。
こんな咳は心臓病を疑ってほしい

すべての咳が心臓病によるものではありません。
しかし、咳の出方やタイミングによっては、心臓病を疑ったほうがよいケースがあります。
心臓病が疑われる咳の特徴
✅ 夜や朝方に咳が出る
✅ 寝ているときに咳き込む
✅ 運動や興奮のあとに咳が出る
✅ 咳の回数が少しずつ増えてきた
このような場合、肺や気道に負担がかかっている可能性があります。
年齢と咳の関係(シニア期の重要性)
犬は7歳頃からシニア期に入ります。
この時期から心臓病が見つかるケースが増えてきます。
「年のせいかな」と思ってしまいがちですが、シニア期の咳は、体の変化を知らせる重要なサインであることが多いのです。
心臓病は早期発見と治療の考え方がとても大切

心臓病は自然に治る病気ではありません。
しかし、早期に見つけ、適切に対応することで、生活の質を大きく保つことができる病気です。
早期発見には検査と健康診断が必要
心臓病は無症状の段階では、見た目だけで判断できません。
だからこそ、検査によって「今の状態」を知ることが重要です。
特にシニア期に入った犬では、元気なうちに健康診断を受けることが、将来の安心につながります。
治療の目的は「症状を出さない・軽くする」
心臓病の治療の目的は、完治ではありません。
✅ 症状が出ない期間をできるだけ長くする
✅ 症状が出ても、できるだけ軽くする
これが治療の大きな考え方です。
適切なタイミングで治療を始めることで、延命効果が期待できるケースも多くあります。
まとめ

犬の咳にはさまざまな原因がありますが、臨床現場では心臓病が背景にあるケースが非常に多いのが現実です。
そして心臓病は、初期では無症状で、咳はそのあとに出てくるサインであることがほとんどです。
咳に気づいた飼い主さんは、すでに愛犬の変化に気づけている、とても大切な存在です。
その気づきをきっかけに、愛犬の健康を見直してあげてください。












