犬の下痢は、日常的に多く見られる症状のひとつです。
特に子犬やシニア犬など、免疫力の弱い時期にはよく起こります。
「ちょっとお腹こわしたのかな」と様子を見ていたら、下痢が長引いてしまった…。
そんな経験のある飼い主さんも少なくないと思います。
ですが、実は下痢の原因はとても幅広く、軽い体調不良から重篤な病気まで、油断できないこともあるのです。
この記事では、犬が下痢を起こす“よくある5つの原因”について、獣医師の視点から、わかりやすくお伝えします。
なぜ「原因」を知ることが大切なのか?

犬が下痢をしたとき、「とりあえず様子を見ておこう」と考える方も多いでしょう。
もちろん、すぐに受診しなくても大丈夫なケースもあります。
でも逆に、原因を見逃してしまい、治療が遅れてしまうと、慢性的な下痢になってしまったり、命に関わる病気が隠れていることもあるのです。
だからこそ、「下痢=体調のサイン」と捉えて、原因を冷静に見極めることが、飼い主としての第一歩になります。
よくある5つの原因を順番に見ていきましょう。
原因①:食事による下痢(フードの変更・人の食べ物など)

急なフードの切り替え
ドッグフードをいきなり変えてしまうと、お腹がびっくりして下痢を起こすことがあります。
特に、安価なフードから高品質なフードに変えた場合でも、起こりやすいです。
理想は、5〜7日間ほどかけて徐々に切り替えること。
混ぜながら量を調整することで、腸内環境への負担を軽減できます。
人の食べ物やおやつが原因に
味付けの濃いもの、脂っこいものは犬にとっては刺激が強すぎます。
とくに唐揚げやハムなどの脂質が高いものを食べたあとに、下痢をする犬は少なくありません。
「かわいそうだから少しだけ…」という気持ちは分かりますが、下痢や膵炎を引き起こす原因にもなります。
腐ったものや異物を食べた場合
ゴミ箱をあさって腐った食べ物を食べたり、公園でティッシュや木片を飲み込んでしまうケースもあります。
この場合、一時的な下痢だけでなく嘔吐や食欲不振も伴うことが多いため、注意が必要です。
原因②:感染症や寄生虫による下痢

ウイルス感染(パルボウイルスなど)
特に子犬で注意すべきなのがウイルス性の下痢です。
中でもパルボウイルス感染症は命に関わる病気で、激しい下痢や嘔吐、血便を伴います。
ワクチン未接種の子犬が多く、感染力が非常に強いため、早急な治療が必要です。
細菌感染(サルモネラ・カンピロバクター)
生肉を食べた後に感染することもあります。
免疫の弱い子犬やシニア犬は、菌の影響を強く受けやすく、水のような下痢や、発熱、元気消失を伴うこともあります。
寄生虫感染(ジアルジア・コクシジウムなど)
便の検査でよく見つかる寄生虫のひとつです。
見た目では分かりにくく、慢性的な下痢が続く場合は、検便検査での発見がポイントになります。
原因③:ストレスによる下痢

犬は環境の変化や心理的なストレスにとても敏感です。
引っ越しや旅行
知らない場所、知らない匂い、大きな音。
それらは犬にとって大きなストレスです。
旅行先やホテルで急に下痢をする子も多く、一時的であれば自然に治ることもありますが、長引くようなら注意が必要です。
家族の不在や同居犬とのトラブル
家族の入院や出張、同居していた犬がいなくなるなどの出来事も、犬の精神状態に影響します。
ストレスがたまると腸の動きが乱れ、下痢を引き起こすことがあります。
留守番時間の増加
長時間の孤独は、分離不安を引き起こすこともあります。
トイレを我慢したり、水を飲めなかったりすることで体調を崩すこともあるので、できるだけ生活リズムを安定させてあげることが大切です。
原因④:アレルギーや食物不耐症による下痢

食物アレルギー
特定の食材に対してアレルギー反応を示す犬もいます。
主にタンパク源(鶏肉・牛肉・魚など)に反応することが多いです。
かゆみや赤みを伴うこともあります。
食物不耐症(乳糖など)
牛乳やヨーグルトを食べて下痢をする子は、乳糖を分解する酵素(ラクターゼ)が少ないことが原因です。
これはアレルギーとは異なる反応ですが、下痢症状は似ています。
原因⑤:消化器や全身の病気による下痢

腸炎・膵炎などの消化器疾患
膵炎(すいえん)は脂肪の多い食事のあとに起こりやすい病気で、下痢だけでなく、嘔吐やぐったりする症状が見られます。
腸炎は、腸の炎症が原因で水様便や粘液便が出ることがあり、慢性化するケースもあります。
肝臓・腎臓病などの内臓疾患
内臓の機能が低下してくると、体内のバランスが崩れ、その結果、下痢という形で現れることがあります。
とくにシニア犬では、年齢による疾患が隠れている可能性も高いため、日々の健康チェックが重要です。
腫瘍や免疫疾患
少し稀なケースですが、腸に腫瘍ができたり、自己免疫の異常が下痢として表れることもあります。
この場合、治療には投薬や食事療法などの長期的な管理が必要です。
病院に行くべきタイミングとは?

下痢が出たとき、どんなときに病院へ行けばいいのか迷いますよね。
以下のような症状がある場合は、迷わず受診してください。
すぐに病院へ行くべきサイン
✅ 血便や黒っぽい便が出ている
✅ 下痢と同時に嘔吐もしている
✅ 食欲がなく、水も飲まない
✅ 元気がなく、寝てばかり
✅ 子犬や高齢犬で体力が心配
✅ 下痢が3日以上続いている
迷ったらまず動物病院に相談してください。
便を持参していただけると診断の助けになります。
まとめ:下痢は「体からのサイン」。原因を知ることが第一歩
犬の下痢は、決して珍しいものではありません。
でも、だからこそ「よくあること」と軽視せず、その背景にある原因に気づいてあげることが大切です。
今回ご紹介した5つの原因は、どれも日常生活の中で起こり得るものばかりです。
– 食事の見直し
– ストレスの軽減
– 定期的な健康チェック
– 早めの受診
こうした積み重ねが、愛犬の健康寿命を守ることにつながります。
「ただの下痢かも」と思わずに、ぜひ一度、いつもと違うサインに耳を傾けてみてくださいね。